どんな心境でも「街はそこにある」 フォトグラファー・ゆうばひかりさんインタビュー【前編】

2022/08/17 Wed
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2021年10月、ライブフォトグラファー・都市風景写真家として活動中の、ゆうばひかりさんの写真展「BLANK」が聖蹟桜ヶ丘のカフェ「くさびや」で開催された。

どんな心境のときも撮ることはやめられないというゆうばさん。写真展「BLANK」についてや、ご自身の写真に対するスタンスなど、ゆうばさんへのインタビューをお届けします。

Writer/Interviewer
山田夏輝/キウチトウゴ
Photographer/Editor
絵美里
ゆうばひかり(ユウバヒカリ)

1994.5.28.生まれ。大阪府出身 東京都世田谷区在住。
ライブフォトグラファー・都市風景写真家としてフリーランスで活動中。

昨年、聖蹟桜ヶ丘のカフェ「くさびや」で開催された写真展「BLANK」は、どんなテーマだったのでしょうか?

ゆうば

空白という意味での「BLANK」なのですが、今回の展示写真を撮ったときの私の心が、空っぽというか虚しい感じだったんです。
前回の個展が終わった2021年の5月から9月が撮影期間だったのですが、そんな心境のときでも写真を撮るのはライフワークなので変わらずに続けていて。
ただ、タイトルは「BLANK」にしたけど、それが内容に繋がっているわけではないんです。その期間の自分のモードが「空白だった」という。

自分の心境と写真は必ずしもリンクしている訳ではない、と。

ゆうば

私の写真は自分で作り込む感じではなくて。私の感情が嬉しいとか悲しいとかは関係なく、街に出れば何かしらがありますし。
たとえば、心が悲しいから楽しい風景が見えないというわけではないと思うんですよね。目には入ってくるので、結果的に何かある写真になったというだけで、自分の状況にかかわらず、「街はそこにあるよね」という。

気分が盛り上がらない時って、カメラを向ける先がなんとなく「人が楽しんでいるところ」ではなく「少し寂しい風景」になったりはしないんですか?

ゆうば

自分の心境とか状況によって、感度が上がったり下がったりはあります。たとえば1時間歩いた中で、素敵だと思う場面が幸せな時は10個あったけど、悲しい時は「2個しか見つけられへんかった」みたいな。見える種類が変わるわけではなく、自分が見つけられる量が変わるっていう感じで。むしろ悲しい時の方が鮮やかな風景とか綺麗な花とか楽しそうな人とか、自分との解離が大きい分、目に飛び込んできやすいのではないかなと思いますね。

2021年10月に聖蹟桜ヶ丘のカフェ・くさびやで開催された個展“BLANK”

普段はどのような写真を展示されているのですか?

ゆうば

前回の個展は「The Year 」というタイトルで、2020年4月からの1年間で撮影した写真を展示しました。
コロナ禍においても私はずっと変わらずに街の写真を撮り続けているけど、社会や環境が変わることで、結果的に撮った写真も変わってくる感じがして。街の人が減っていたり、みんなマスクをつけていたり。自分自身は何も変わっていなくても、結果として生み出すものが変わりうることが、奇妙でおもしろいなと感じていました。

はじめての個展は「柱」というタイトルで、ライブ写真と街の写真というジャンルが違うものを展示することで、私がやりたいことの共通点や軸を見てもらいました。

今回の「BLANK」では風景写真がメインですが、もともとはライブ写真を撮ることが多かったんですか?

ゆうば

「バンドの写真が撮ってみたい」というところからカメラをはじめたので、最初の1年半くらいはずっとライブ写真だけを撮っていました。風景写真をしっかり撮りはじめたのは、カメラマンを職業として意識するようになってから。

私の好きな写真家は街の写真を撮っている人が多くて、テレビを見る感覚でその人たちの写真を見ていたんです。同じような写真家になりたいという意識はなかったけれど、ライブ写真でカメラマンになれたことで風景写真との距離も近くなったのだと思います。

カフェの壁一面に写真を展示。その他写真集やステッカーなどのグッズ販売も行われた。

個展以外には、どのようなお仕事をされているのでしょうか。

ゆうば

いつも撮らせていただいている特定のバンドがいたり、バンドが所属している会社から依頼を請けたりします。あとは、イベントの主催者から呼んでいただくとか、クライアントの形は様々ですね。
『I LIKE YOU 忌野清志郎』というプロジェクトも印象的。私にとってはじめての書籍のお仕事だったので。Web記事の連載を書籍化したものなのですが、普段の生活ではお会いすることのないような方々を撮影させてもらいました。

忌野清志郎というと、世代は離れていると思うのですが、『I LIKE YOU 忌野清志郎』の本の中での被写体は、結構レジェンドだったりするじゃないですか。そういう時に意識されていることはありますか?恐縮してしまうことはないですか?

ゆうば

年齢や経歴などは関係なく、撮らせて頂く方には全員に敬意を持っているつもりなので、どんな相手でも変わらない気持ちで撮影をしています。
その場で語られる言葉以外に、その人の背景や過去が何倍も存在するということを肝に銘じながら、できるだけいろんなものをキャッチできるようにしています。

撮る時の相手との心理的な距離は、近づいた方がそういった背景がキャッチしやすいんでしょうか?踏み込むというか。それとも客観的に見ている方が感じとれるんでしょうか?

ゆうば

初対面の相手には無理に近づかないことが多いです。書籍のときは、私が踏み込むというより、その人が清志郎さんのことを話しているときの眼差しとかインタビュアーのひとを見る目、思い出している時の表情とかを撮る。その人の内から勝手に出てくるものを遠くから撮る。そういう気持ちでした。

ゆうばさんが本編のインタビュー写真の撮影を担当した「I LIKE YOU 忌野清志郎」

忌野清志郎の書籍の仕事はすごく難しそうだなと感じました。関わっている周りの人が全体的に上の世代だったと思うので、自分だったら自分がそこにいることに違和感を感じそうだなと(笑)
その環境で、自然な写真を収められることがすごいなと感じました。

ゆうば

目の前にいる人から溢れてくる情報量というか、身に纏う空気感や選ぶ言葉、話の内容など、そういうものがすごく多くて魅力的な人たちだったので。降ってくるものをキャッチするだけみたいな感じでした。もちろん緊張はしていましたし、一生懸命な気持ちではいたのですが、そんなに苦労した記憶はないです。

忌野清志郎の仕事につながる経緯はどんなものでしたか?

ゆうば

ライターの岡本貴之さんと別のお仕事でご一緒して雑談しているときに、私に「清志郎に似たパッションを感じる」ということをおっしゃってくれて、そのときすでに岡本さんは清志郎に関するライティングをしたいと構想も練っていらっしゃって。それで、一緒に企画から作り上げていけるカメラマンがいたら、一人でやるよりいいなと思っていたところに、私と出会ってお声がけしていただきました。

すごいですね!なかなか清志郎パッションを感じる人なんていないです(笑)

ゆうば

どこで岡本さんがそう感じてくださったのかわからないのですが(笑)
清志郎については、好きなアルバムが1、2枚あるぐらいで、パーソナルな部分や経歴を詳しく知っているわけではなかったので、お声掛けいただいてからたくさん勉強しました。

前編では写真展「BLANK」について、そして、ゆうばさんの仕事観についてのお話を伺いました。
後後編では、個展を通して感じたこと、そしてゆうばさんの写真に対する想いをお聞きしました。

ゆうばひかりさんインタビュー 後編はこちら
Writer/Interviewer:山田夏輝

Writer/Interviewer:キウチトウゴ

日野生まれ、多摩市在住。くさび社所属。緑色のものを追いかけるのが好きです。夢は多摩市に銭湯を作ること。

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Photographer:絵美里

生まれも育ちも京王線沿い。くさび社所属のシングルマザー。愛猫のプティは最近新しい家族に。元美容師で、現在はライティング、フォトグラファー、デザイナー、古着屋の運営などなんでもやっています。

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