多摩市の落合団地商店街で古着屋「SAJI」を経営している大和さん。聖蹟桜ヶ丘で約21年続いた古着屋「マメトラ」を2021年に閉店するも、古着への愛を抑えきれず、2年後に「SAJI」をオープン。
大和さんは古着に対してどんな想いをもち、今に至るのか。その原点や、足取りについてお聞きしてきました。
- Interviewer
- Kana Kishino
- Photographer
- mayu
- Writer
- 絵美里
- 大和さん(やまとさん)
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1971年多摩市出身。多摩市在住。2021年3月「マメトラ」閉店後、2023年2月1日に落合団地商店街にて古着屋「SAJI」をオープン。
母と行ったリサイクルショップが、古着を好きになった原点。
大和さんはなぜそんなにも服が好きなのでしょうか。インタビュアーとしてではなく、ひとりの客としてお店にいくようになってからずっと気になっていたんです。
- 大和さん
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実は、服というよりも古着が好きなのかもしれません。子どもの頃に母親とリサイクルショップによく行っていて、そのお店で古着の中からお宝を探す楽しさに魅了されたんですよね。その体験が一番の思い出であり、古着を好きになった原点と言えるかもしれません。
すてきな思い出ですね。子どもの頃から古着を着ていたのですか?
- 大和さん
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はい、そうですね。新品の服も着ていたと思いますが、とくに母親に連れて行ってもらったそのお店が大好きだったんです。
その原点から、今までどんな道を歩んで古着屋を営むようになったのでしょうか。
- 大和さん
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高校生の頃になると、漠然と「自分のお店」を持つことが夢になっていて。そのためには、本当に自分が好きなものを見つけることが大切だと思い、どんな職業でどんな経験をしていけば道が開いていくのかをいつも考えていました。そこで、当時は美容師を目指すことに決めたんです。
最初は美容師として技術を磨いていく日々を過ごしていましたが、次第に違う道を考えるようになりました。手荒れがひどくなってしまったことや、美容師としての自分自身に迷いが生じたことも理由で。
そこで、別の分野で店を持つことをはじめ雑貨屋なども考えましたが、やはり古着屋に惹かれていきアルバイトから再スタートしたんです。
大和さんは自分の夢を追い求め、古着屋を経営することにたどり着きました。
彼女の経験と思い出が、古着への情熱や店舗開業への道を切り拓く大きな要素となったことが伝わってきます。
丁寧に発信していけば日本古着の良さはしっかりと伝わるはず
自分で古着屋をはじめると決めたときから、テイストや雰囲気は今も変わらないままですか?
- 大和さん
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模索しながら進んでいき、自分が好きなテイストを扱う一方で、トレンドに沿ったものも選んでいます。常に変わりゆく時代の流れに合わせながらも、自分の好みやセンスも大切に。
現在もお客さまからの買取が中心なので自分で仕入れをする古着屋さんとは異なり、持ち込まれたアイテムを自分のフィルターを通して選び、お店に並べています。
最初はどこの古着屋で働いていましたか?
- 大和さん
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近所の古本屋が古着も扱っていて、そこで働いていました。アメリカ古着やヨーロッパ古着ではなく、今でいうとブックオフのような感じで。お客さまから衣料品を買い取ったり預かったりして販売していました。
それでもとてもおしゃれで面白いアイテムが集まってくるお店で、その風景を見て、自分もこんな風にお店をはじめられるのではないかと思ったんです。
「日本古着」をSNSで紹介されていたのが印象的でした。
- 大和さん
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古着に関わる中で日本の古着は評価されにくく、アメリカやヨーロッパの古着とは異なり処分されることが多いと感じていたんです。でも、日本は和装から洋服に変わりゆく長い歴史があります。日本古着は和装の文化も背景にあるので、海外の古着には無い懐かしさや新鮮さを感じるものも多いんです。
まだ日本古着の評価は低いですが、丁寧に発信していけば日本古着の良さはしっかりと伝わるはずだと思っているんです。
遠方からのお客様のためにカフェも併設した「マメトラ」
古着屋をスタートさせてから、途中でカフェを併設されたと伺いましたが、何かきっかけがあったのでしょうか?
- 大和さん
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聖蹟桜ヶ丘で一店舗目の古着屋「マメトラ」をしていたとき、周りには個人店のカフェやご飯どころがほとんどなかったんです。
SNSでマメトラを見つけてくださったお客さまが遠くから来てくださることもありましたが、遊ぶ場所がほとんどなかったため、ゆっくりできる場所も必要だと感じてカフェを併設することにしました。
マメトラのときも現在のSAJIでも、アートにも力を入れているのはゆっくりと過ごしてもらうためのアイデアなのでしょうか。
- 大和さん
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実は、アートの展示をするようになったのは偶然の産物で。マメトラがオープンしたあと、壁ががらんとしていて、どうしようかと悩んでいたんです。そんなとき、表現をしたい人に壁を貸し出すことがたまたま決まって。
そのあとも、たくさんの人々が繋がっていくことになり、本当に偶然ながらも良い形でアートの展示が続いていったのだと思います。
アートの展示が変わることで、いつ行ってもいつも違った楽しみがあるというのは素晴らしいです。
マメトラが21年間も愛されてきたのは、そんな楽しさも理由のひとつかもしれませんね。
- 大和さん
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そうですね。続けてこられたのは、周りの人々の存在も大きいと思います。スタッフやお客さまにも恵まれてきました。いままで携わってくれたスタッフもお客さまとして戻ってきてくれますし、遠くへ引っ越しされた方が「ちょっと実家に帰ったから寄りました!」と言ってくれることもあって。それが本当に嬉しい瞬間で、そうしたときに「これが店を営む意味なのだろうな」と感じるんです。
「SAJI」の存在が、街に新しい視点を生めるように。
マメトラの閉店を決めてから、約2年後にSAJIをオープンされましたが、なぜ再び古着屋をはじめようと思われたのでしょうか。
- 大和さん
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一度、服から離れてみたいと思い、福祉の仕事に携わることに。福祉の仕事は自分に合っていて「このまま続けていくのだろうな」と思いましたが、やはり服への愛着が抑えられませんでした。そんな福祉の仕事でも服を扱うことになり、もっと良いかたちで販売したいという欲求が湧き上がってきてしまったんです(笑)
「良いかたちで取り扱えばこの服の魅力をもっと伝えられるのに…!」と思われたのでしょうか?
- 大和さん
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そうですね、またもう一度やりたいなという思いが湧いてきました。同時に、福祉の現場でないと学べなかったこともあり。もし本当にまた古着屋をはじめるのであれば、服を通じて「役に立てるかたち」で続けていきたいと考えて決心しました。
現在、SAJIの実店舗をオープンされたばかりで、まだ試行錯誤の段階だということですが、イベントなども多く開催されていますね。
- 大和さん
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まだ模索中ですが、これからもたくさんの方々と交流し楽しいお店にしていきたいんです。そんな気持ちでお店を続けていければ、周りのみなさんも同じように感じてくれるのではないかなと思っています。
すてきですね。以前のお店と近い場所にSAJIの実店舗をオープンした理由はありますか?
- 大和さん
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最初から多摩市でやりたいと決めていたのですが、たまたま落合商店街に空き店舗があると知り、選択肢に入れました。
多摩市は高齢化が進んでいると言われていて、最初は集客も難しいかもしれません。ですが若い人たちが移り住みたいと思える街づくりも同時に進んでいます。そんな流れに加わることで、多様性や障がいのある方々、それ以外にもたくさんの新しい視点が生まれ、街づくりに貢献できるかもしれないと感じ、落合商店街に決めました。
私たちが手助けできることはたくさんある。
学生とのコラボや、衣装として古着を貸すなどの活動もされていますが、若い人たちを応援するための取り組みなのでしょうか。
- 大和さん
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意図的に「次世代のために」やっているわけではありません。ただ純粋に、以前一緒に働いていた学生スタッフが来てくれたことや、声をかけてくれたことが嬉しくて。私たちが手助けできることはたくさんあると思うんです。若い人だけでなくどんな人にもそういった気持ちでいます。
都心の古着と比較すると、SAJIの古着は手に取りやすい価格だと感じますが、それも「手助けできること」のひとつなのでしょうか。
- 大和さん
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価格が安いとはよく言われますね。ただ、私自身はそれほど意識して安くしているわけではなく、意図したものでもないんです。多摩と都心を比べると土地代が安いということでの影響はあると思いますが。
古着の価値や価格に関しては、人それぞれの感覚がありますよね。でも、高価だからと飾っているだけでは服本来の役割は果たせないと思っています。服のためを考えていたら、自然と今の価格になっていったんです。
SAJIのこれからの展望や目標などはありますか。
- 大和さん
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オンラインストアだけのときには売上の一部を、里親出身の子どもたちの学費支援団体である「西脇基金」に寄付していました。今現在は実店舗を持ったので、支援団体に託すやり方ではなく「店舗を使って何かできないかな?」と考えています。たとえば、洋服のメンテナンスを障がいのある方にお仕事としてお願いするのはどうかなとか。
また、服を通してたくさんの出会いがあるといいなと思っています。ご高齢の方から若い方へ服を引き継いでいく取り組みや、実店舗でのイベントなどで人と人との交流が生まれることも楽しみで。どんな人でも気軽に立ち寄ってもらえて、すてきな出会いが交わっていく場所になっていけたらと考えています。
古着への愛を抑えきれず、「マメトラ」閉店後に再始動し「SAJI」をオープンさせた大和さん。
ガラス張りで開放的な店内には、「ここでしか買えない」と思わせてくれるような個性に溢れた大和さんセレクトの古着が並んでいます。確かに交通の便が良いとは言えない落合団地商店街ですが、「SAJI」の存在が新しい息吹となり、商店街の間の道を風が通り抜けていくような心地よさの感じる空間になっていました。
「マメトラ」での経験を活かしながら、「誰かの役に立つ古着」という新しい取り組みを進める「SAJI」は、これからも落合団地に、そして多摩に、新しい風を吹かせてくれそうです。
- MOGMOG店長(カナ)
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古着と音楽の話になると、ちょっと早口になるオタク。
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ポテトサラダにはソースをかけるし、お好み焼きはおかずにならない派の関西人です。